カマン・カレホユック

大村 幸弘 アナトリア考古学研究所長

第26次カマン・カレホユック発掘調査(2011年)

はじめに

カマン・カレホユック2011年

写真1:博物館学フィールドコース

カマン・カレホユック2011年

写真2:考古学フィールドコース

第26次カマン・カレホユック発掘調査は、6月30日に開始し、9月5日に終了しました。9月5日,博物館の展示に叶う出土遺物44点をカマン・カレホユック考古学博物館へ収めました。今シーズンは、査察官としてジハット・チャクル氏(カスタモヌ考古学博物館学芸員、カマン郡、アナトリア考古学研究所の北東約5キロにあるイェニヤパン村の出身)が派遣されました。発掘終了後、研究所では遺物整理、実測、撮影、修復等を開始し、現在でも研究所ではそれらの作業が継続して行われています。また、例年通り、北区、南区で検出した建築遺構、断面等を保護するために仮設の保護屋根を架ける作業を11月9日に開始、約三週間で終了しました。

カマン・カレホユック2011年

写真3:動物考古学フィールドコース

カマン・カレホユック発掘調査の期間中に、国際交流基金、トルコ文化・観光省との共催でトルコの博物館の学芸員を対象とした博物館学フィールドコースを行ないました(写真1)。また、この期間中にアナトリア考古学研究所では考古学(写真2)、動物考古学(写真3)、植物考古学(写真4)フィールドコースも行われました。これらコースには日本、トルコ、アメリカ、ポーランド、オーストラリア等の学生が参加し、活発な討論、交流が行われました。

カマン・カレホユック2011年

写真4:植物考古学フィールドコース

調査目的

カマン・カレホユック発掘調査の目的は、『文化編年』の構築です。この目的のために1986年、北区を設置しています。これまでの調査で、この北区で4文化層-第I層、オスマン時代、第II層、鉄器時代、第III層、中期・後期青銅器時代、第IV層、前期青銅器時代-を確認しています。また、1987年には北区で確認した各文化層の集落形態を考察するために南区が設置されています。

カマン・カレホユック2011年

写真5:北区

第26次カマン・カレホユック発掘調査では、北区で第III層、南区で第II層を中心に調査を進めました(写真5)。特に、北区では第IIIc層から第IVa層にかけての移行期、換言すると前期青銅器時代から中期青銅器時代の文化層、また、南区では第IIc層と第IId層、つまり初期鉄器時代を中心に調査を行いました(写真6)。

カマン・カレホユック2011年

写真6:南区

北区の遺構

北区の問題点は、第IIIb層と第IIIc層との境界線が今ひとつ明確ではなく、ここ数年、北区V〜VIII区でこの点に関して集中的に調査を行っております(写真7)。

カマン・カレホユック2011年

写真7:北区 VI-VII-VIII区

IV〜VIII区にかけて行ったこれまでの発掘調査では、第IIIc層、アッシリア商業植民地時代の南北に走る大きな建築遺構が確認されております。この建築遺構は、大ぶりの石で土台は堅固に構築されており、床も石敷きになっているのが一つの特徴です。また、この建築遺構の西側、南側には石壁に即した形で小石、土器片等で舗装された道が確認されています。また、この舗装された道、そして建築遺構は、昨年、一昨年と取り外しを行いましたが、数度に渡って建て直しを行ったことが明らかになっています。

カマン・カレホユック2011年

写真8:舗装されていた道

今シーズンはVII区で第IIIc層のアッシリア商業植民地時代の最下層のものと推測していた石壁、それに付随していた小石、砂、土器片、灰等によって舗装されていた道の取り外しを行いました(写真8)。これらのアッシリア商業植民地時代の建築遺構は、VIII区で確認されていた第IIIb層、つまりヒッタイト古王国時代の建築が構築される際に破壊されたものです。しかし、VIII区の第IIIb層の建築遺構直下に確認されている建築遺構が、果たして第IIIb層に帰属するものか、あるいは第IIIc層に属するかを解明するために今回の調査は進められました。

カマン・カレホユック2011年

写真9:第IIIc層建築遺構

その調査結果ですが、VIII区で検出され、これまで第IIIb層として捉えていた建築遺構は第IIIb層ではなく、第IIIc層であることが明らかとなりました。と言いますのは、VII区で第IIIc層の最下層に帰属すると考えていた南北に走る建築遺構直下からは依然として第IIIc層に属する建築遺構が確認されたことと(写真9)、その新たに確認した建築遺構が、VIII区で確認し第IIIb層のものとこれまで考えていた建築遺構と結びついたことで、これまで考えていた以上にアッシリア商業植民地時代の集落は規模的にもかなりの広がりを持ち合わせていたことが明らかとなってきました。

カマン・カレホユック2011年

写真10:北区 VIII-IX-X区

次の問題点としては、IX区で検出されている東西に走る城塞が果たしてアッシリア商業植民地時代のものか、あるいはヒッタイト古王国時代に年代付けられるかが大きな問題点として浮上してきています(写真10)。これに関しては第27次発掘調査で明らかに出来ると考えておりますが、これが明らかになったところで北区の第IIIb層、第IIIc層の全貌は見えてくるものと思います。何れにしましても、アナトリア考古学の中での問題点としてアッシリア商業植民地時代とヒッタイト古王国時代の考古学的境界線を明らかにすることが出来ていなかったと思いますが、このカマン・カレホユック発掘調査によって大凡のところは明らかになりつつあると考えております。今後はそれに合わせて遺物整理を行う必要性があります。

北区の出土遺物

北区では土器、青銅製品が出土しています。その他に第IIIc層の建築遺構を取り外しているところで鉄製品が出土しています。以前南北に走る第IIIc層のアッシリア商業植民地時代のVII区の建築遺構の床面上でも鉄製品が確認されておりますし、V区でも第IIIc層の遺構の取り外しを行った際に鉄製品が見つかっていること考えますと、少なくとも前2千年紀元初頭のカマン・カレホユック遺跡では鉄生産が行われていた可能性が高いのではないかと考えております。今後製鉄址の確認が重要になってくるものと思います。

南区の遺構

南区では第IIa層の建築遺構と第IIc層、第IId層の建築遺構を中心として調査を行いました。

カマン・カレホユック2011年

写真11:南区 XLVIII区

第IIa層の建築遺構に関しては、XLVIII区で調査を進めました(写真11)。この西側の発掘区では第IIc層の建築遺構が確認されていましたが、それを切る形で第IIa層の二本の石壁を確認していました。この二本の石壁は、幅約3.0mとこれまで確認されている第IIa層の石壁とは大きな相違が認められます。まず第一に両者とも最初に約1.0mと掘り込みを作っていることです。そして今回の調査で明確になったのは、壁に対角する形で三本(四本)の石壁(幅約1.2m)を確認しました。壁自体は人頭大の石を詰め込んだ形で形成されており、決して堅固なものとは言えません。どちらかと言えば粗雑な造りと言えます。この様な壁の上部構造がどのようなものであっかは今もって解明出来ておりませんが、これと同様な構造の石壁はXXXIV区とLVI区でも確認されています。この深さの土台を持つ上部構造となると、それ相応のものであったとは思いますし、規模的に言いましても、決して私的な構造物だったとは考えにくいところがあります。何れにしても、この第IIa層の建築遺構によってXXIX区の第IIc層の建築遺構が破壊されていることが明らかとなりました。

カマン・カレホユック2011年

写真12:南区 R177

第IIc層の建築遺構の特徴の一つとして半地下式が挙げられています。今回の調査では第IIc層の特徴を持つR177の発掘を行いました(写真12)。これまでの調査でも多くの半地下式の第IIc層の遺構を確認して来ておりますが、この半地下の箇所が生活空間であったかは現段階では明らかにされていません。ただ、生活空間を示唆する炉址等が確認されておりますので、その可能性を全く否定することは出来ません。

カマン・カレホユック2011年

写真13:南区出土彩文土器

南区の出土遺物

南区では土器の他、青銅製品、鉄製品等が出土しています。第IIa層に年代付けられるクラテル形の彩文土器がピット内から確認されました(写真13)。また、第IIc層、第IId層の彩文土器も数多く出土しています。

おわりに

第26次では、例年通り北区で『文化編年』の構築と南区で鉄器時代の集落形態と建築について調査を進めましたが、北区ではアッシリア商業植民地時代の集落が規模的に予想以上に大きいこと、建築構造が他の時代に比較してもかなり堅固であったこと等が明らかになりました。これからの作業は、仮層で取り上げている遺物の整理を建築層毎に整理を進めることかと思います。これまでの調査から言えることは、アッシリア商業植民地時代の文化をヒッタイト古王国時代が継承していること、そしてヒッタイトに入ってから漸次変遷を繰り返しヒッタイト独自の文化を形成したと考えるのが妥当なのではないかと考えています。

謝辞

カマン・カレホユックの発掘調査は、これまで多くの助成団体から研究助成金、補助金の交付を受けて継続しております。ここに改めて、感謝申し上げます。2011年度に助成頂いた団体は以下の通りです。



第26次カマン・カレホユック発掘調査(2011年)途中経過(2)

6月下旬に開始した第26次カマン・カレホユック発掘調査も最終段階に入りました。北区では例年通り「文化編年の構築」、南区では「暗黒時代」の第IId層を中心に調査を進めています。

北区では、予想していた以上に第IIIc層-アッシリア商業植民地時代の文化層が厚く堆積しており、第IVa層になかなか入ることが出来ません。ただ、この第IIIc層の中からは今シーズンも鉄資料が幾つか出土しており分析が待たれるところです。数多くのピット群が北区の第IIIc層から確認されていますが、どれも廃棄用と貯蔵用の何れかに使用されたものと思います。第IIIc層のピット群からは、銅石器時代のものと思われる刻文の施された土器片が幾つも出土しておりカマン・カレホユック遺跡には銅石器時代の文化層が包含されていることは間違いありません。現在、盛んに第IIIc層の建築遺構を発掘中ですが、何れの建築遺構の基礎部もがっちりと石で構築されており、何度となく改築しながら利用していたと思われる痕跡が見られます。

南区では、7月から8月初旬にかけて1990年代に発掘調査を行った第I層-オスマン帝国時代、第IIa層-鉄器時代後半の建築遺構の取り外しを行いました。と言いますのは、暗黒時代、つまり初期鉄器時代の建築遺構は予想以上に南区の広範囲に広がっていることが徐々に明らかになって来ており、それを明らかにする上でも第I層、第IIa層の建築遺構の取り外しを行う必要がありました。その過程で第IIa層に年代付けられるクラテール形の彩文土器が出土しましたし、青銅製鏃、フィブラ等も確認されています。今回の調査で第IId層-暗黒時代の建築遺構は、何れも火災を受けていること、床面には幾つも柱穴があること等が判りました。特に柱穴などは第IIIa層-ヒッタイト帝国時代には確認出来ておりません。恐らく第IId層の特徴の一つと考えることが出来ます。9月初旬で第26次発掘調査は一応終了の予定です。(大村幸弘)


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第26次カマン・カレホユック発掘調査(2011年)途中経過

第26次カマン・カレホユック発掘調査は順調に進んでおります。7月も中旬に入りやっと天候も安定してきており、気温も上昇してきました。発掘現場では北区で前2千年紀前半の文化層、そして南区では第IId層、つまりこれまで「暗黒時代」と呼ばれていた文化層を発掘しているところです。北区では第IIIc層-アッシリア商業植民地時代から第IVa層-中間期時代(先史時代の末)を集中的に発掘しています。これまでなかなか解決出来なかった第IIIc層と第IIIb層-ヒッタイト古王国時代の境がやっと解明出来るのではないかと期待しています。これまでアッシリア商業植民地時代の土器、印章、紡錘車、骨格製品等が出土しています。さらに、第IVa層に徐々に入り始めていることもあり手づくね製の土器も出土し始めています。


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第26次カマン・カレホユック発掘調査(2011年)が開始されました

第26次カマン・カレホユック発掘調査は、6月29日に文化・観光省から派遣された査察官(ジハット・チャクル氏、カスタモン考古学博物館学芸員)がキャンプ入り、30日の早朝から調査を開始しました。例年通り建築遺構、セクションを守る為に発掘区に架けてあった保護屋根の一部を外し、クリーニングを開始しました。保護屋根を架けていたこともありこれまで確認した建築遺構、セクションの保存状態は極めて良好でした。発掘調査には、キャンプを張っているチャウルカン村と近郊のカマンから47名を採用しました。実際の発掘調査は7月2日から開始、現在北区では第IIIc層-アッシリア商業植民地時代、南区では第IIa層-鉄器時代後半、第IId層-鉄器時代前半の文化層を掘り下げているところです。


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